もくじ
山のハイシーズンに近づいてきて、高山の雪溶けが進んできました。
山愛好家の皆さまにとっては、「ようやく山に行けるぜ」と、うずうずドキドキわくわくしているところでしょうか。なんて書いていたら、気づけば夏が終わりそうです。どうも、ど田舎はいたついん(妻)です。
山小屋アルバイトを始めたきっかけ
”山小屋アルバイト”山好きなら一度は憧れたことがあるのではないでしょうか。
筆者が山小屋アルバイトに応募したきっかけは、単純にお金をどーんと貯めたかったから。かつ、山歩きができる自然が豊かな場所がいい。そんな理由でした。
やりがいがあると感じている仕事を辞めて山小屋に行こう!と思ったあの時を思い返すと、「新たに人と出会い、人に揉まれ、人生刺激が欲しいな」と心のどこかで感じていたようです。そんなこんなで、夫が昔働いていた小屋のアルバイトに応募することに。
小屋での暮らし
小屋内、電波はない。ただし、小屋から10分程傾斜を登れば通話ができるちょうど良い環境。休憩時間には勤務中のスタッフからスマホを預かり、電波が受信できる場所まで行くこともある。そんなこんなで、下界で起きた事件や災害について少し遅れて耳に入ることが多かった。
私のいた小屋は規模が大きめで、スタッフは超繁忙期は20人程。入山すると共に、知り合ったばかりのスタッフたちと寝食共にする日々が始まる。楽しいこともストレスに感じることも清々しい山の上でも、そりゃあります。でも、終わってしまうと全てひっくるめて人との、山との濃い大切な時間だったなぁと筆者は感じています。
1日の勤務スケジュール
とある日の勤務スケジュール。勤務体制は何パターンかあるけど、大体星が見える時間に起床。眠たいの一言に尽きるけど、夜明け前から徐々に明るくなっていく山々の景色、季節が移ろいで行く様を堪能できるのは格別です。日の入りも同じく。天気がいい日も悪い日も山小屋で過ごせるのは山小屋アルバイトの大特権ですね。
仕事の内容
あくまで私がいた小屋での話ですが、ざっくりとこんな感じです。
日々の仕事
・ひたすら食事作り(お客さんの朝夕お弁当、+従業員の食事)
お客さんも従業員どちらも大事!エネルギーの源を担っています。ものすごい量の食事の仕込み、提供、片付け(繁忙期は満席×3セット以上の朝夕食を切盛り…鬼忙しい)
・ひたすら掃除
・チェックイン対応、宿泊予約受付
・喫茶、軽食の提供。早朝から珈琲を淹れたり、きんきんの生ビールをジョッキに注いだり。
・売上の精算
・どれだけ忙しくても絶対にお客さんのお見送り(これを言ったらどこの小屋かバレちゃいますね)
その他
・道直し。晴れた日は(日によっては雨の日も)ガッツのある戦士たちが登山道の整備へ
・屋根の上で布団干し(そのままお昼寝したり)
・缶潰し(缶ペコと呼ぶ)
ものすごい量の空き缶をひたすらハンマーでぺしゃりと潰し、金網袋に詰める。缶もビンも焼却できるゴミ以外は全て、いつかの物資ヘリコプターで下界へ下ろします。ハイシーズンはジュースなどの空き缶・瓶が1日で90Lゴミ袋×10ぐらい出ます。おそろしい量。そう思うと、山の上でジュースやお酒を購入できることは本当にありがたいことだなぁと身に沁みて感じます。そんな物資を山奥まで運んでくれるヘリコプターは今、山小屋との契約をどんどん打ち切りつつある現状であります。コロナウイルス云々、山小屋の危機はいろいろとあります。時代の流れでもあるのでしょうが、多くの登山者たちの山行と共に存在する山小屋の危機。山小屋を利用したことがある人にはぜひ知っておいてもらいたい事実。
・物資ヘリコプター来る日は総出で物資の運搬、お客さんやヘリの誘導など
・系列小屋へのヘルプや歩荷
・玄関先の水まき(乾燥した日が続くと小屋周りがすぐに砂嵐になります。まいてもすぐに乾きますが。笑)
・雉打ち(トイレに貯まったうんちの処理)
ありがたいことに標高が高い山域にもトイレがあります。どんな仕組みで排泄物が処理されているのか考えたことはありますか?説明が難しい……。運が良ければ?強風の日とか現場に出くわすかも。野糞派!という方もいらっしゃると思いますが、整備されている登山道周辺や保護されている高山植物たちに悪影響を及ぼしてしまいます。
休日の過ごし方
天候やお客さんの入りを見て、超繁忙期でも週1日は休日をもらっていました。
山歩きに行っても良いけど、門限は絶対に厳守。天気が良ければ許容範囲内でプランを組み、るんるんと山を歩く。悪天候でもそれはそれでいい。好きなだけ寝たり、談話室の本を読んだり、ケーキや軽食を注文したり、休日メンバーであれこれして過ごしたり。
長期間勤務のスタッフはシーズン中に一度、1週間ぐらいまとめて長い休暇をいただけることも。下山して下界で用事を済ませる人や、周辺の山小屋を渡り歩き、山をどっぷり味わう人など過ごし方は様々。
他の山小屋の事は知らないけど、私が働いた小屋はかなり従業員も大事にしてくれる(もちろんお客さんも)素晴らしい環境でした。社長も社員さんもすんばらしいです。超ホワイト!小屋がお客さんにも従業員にも愛される理由がわかります。
登山者の意識
気象情報に関して知識は乏しいが、受付にいると「今日は天気どうかな」「このプランどう思う?」などいろいろ聞かれます。答えられる範囲で答えたり議論したりするけど、気象情報もコースに関しても他人事なお客さんが多いのも事実です。
超ハイシーズンに来て布団が1人1枚ないことにプンプンしている人もいるけど、この時期に来るのだから仕方ないこと。でも、経験したことなかったらそんなことわからないですよね。10月にまだ夏気分で来たり、初めて歩く山域で下調べせずにパートナー任せ、またはソロでも誰かに聞けば大丈夫精神でやって来る人がいたり。時々、自身にも当てはまることがあり、ひやっとした。危機意識をもち、事前に情報を得ておくことはサボってはいけないことだなぁと感じました。
時に遭難事故や重傷人の緊急搬送が出た知らせが入る。ちょっと離れた別の山小屋から足りなくなった医療品の貸出要請が入り、暗闇の中ベテランスタッフが届けに行くシーンもあった。小屋にお泊りのお客さんが突如意識を失い、看護師スタッフの指示の下対応に走ることも。以上の点から看護師資格を持っているアルバイトはとてつもなく重宝されます。看護師のスタッフと一緒に働いていて、お客さんにとってもスタッフにとっても心強い存在でした。
山小屋で働いて、救急法や応急処置の知識をもっと深めておきたいと強く思いました。どこに行っても、身近な大切な人たちにも役立つ知識ですね。看護師でなくても、下記のような救急法を習得しておけば山の上でも下界でも役に立つこと間違いありません。(ちなみに筆者は自然の家で働いていた時MFA資格を所持。夫は今もWFR資格所持。)
山の上でも下でも役立つ資格
世界31ヶ国で選ばれている「WMA(Wilderness Medical Associates)野外・災害救急法」医療アクセスが過酷な環境や災害などの状況でも「いのちをつなぐ」救急法。ウィルダネス状況下(医療体系への引き継ぎや必要な処置を受けるまで に長時間を要する状況)で必要とされる評価と処置、また長時間に及ぶ経過観察と看護、過酷な自然環境下での考え方などを体系的にまとめた内容です。座学で理論的に理解し、実技を通じて体で覚える学習スタイルです。
アルバイト応募
夏のアルバイト募集は、12月頃から募集が始まることが多いです。
気になる小屋のホームページや山小屋アルバイト情報サイトをこまめにチェックするのがいいでしょう。
山小屋や温泉宿のアルバイト情報を集約しています。
山小屋、旅行会社、メーカー、ショップなどアウトドア業界の求人情報を掲載しています。
最後にひと言
あれしたいなー、これやってみたいなーなんて思うことはたくさんあっても、年々環境や背負うものが増えてなかなか腰が上がらなくなってきたなーと感じます。これは悪いことではないし、年を重ねるごとに自身の軸が何となく固まってきているからなのかなとも思います。だから、若いからこそではなく幾つになっても今だと思えるタイミングがやってきた時には、思い切って飛び込める自分でありたいなと思うのでした。
数年前に経験した『北アルプスの山小屋アルバイト』について綴ります。
夏の3ヶ月(7月上旬〜10月上旬)山小屋で過ごした時間はとてつもなく濃いものでした。
記憶が薄れつつあるので、朧げな部分もありますが是非ご覧になってください。